キムチャート 塾で高校生に数学を教える方法

愛知県で大学受験の塾を経営しています。青チャートを用いて、数学重傷患者を蘇生するときに私が考えていることを公開します。

二次関数の教え方

二次関数は高校1年生が夏休み前後に躓いて、そのまま「数学終了」になる鬼門です。まずはここをしっかり教えていきます。

 

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  1. 二次関数で躓くポイント

 

 高校生が二次関数で躓くポイントは限られています。最も押さえたいのは3点あり、1つめは「最大値・最小値の問題」、2つめは「二次不等式」、3つめは「判別式」です。もちろん細かいポイントはこれ以外にもいくつもありますが、二次関数が出来ない生徒はまず間違い無くこの3点を理解していません。新しく入塾する生徒の数学のレベルを見るには、青チャートの数学Iから「例題79」、「例題106」、「例題113」を解かせてみます。

 

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例題79では、場合分けのやり方を理解しているかを見ます。この問題をどの程度まで進められるかで、普段の学習状況を予想することもできます。

 

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例題106では、二次不等式をグラフを用いてとけるかを見ます。この問題はグラフを用いずに、形から答えを暗記しているある意味記憶力のいい生徒がいるのでしっかりグラフを利用しているか注視していきます。

 

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例題113では、判別式とグラフの関係を理解しているかを見ることが出来ます。(1)で(判別式)≧0 と処理している生徒は、意味を考えていません。

 以上から、生徒の学力を把握します。これによって、二次関数を教えていくときにどの程度詳しく教えていくのか、どの程度時間をかけながら教えていくのか判断していきます。では、実際に二次関数を一から教えていくときに、各分野で何を考えながら教えていくべきなのか考えていきます。

 

  1. 二次関数の教え方 – 平方完成

 平方完成は公立トップ高(愛知県で言えば一宮高校など)の生徒でも、正確にできない生徒がいるので案外あなどれない分野です。平方完成においては、以下のステップで習得させていきます。

 

 1 二次の係数が正の整数

 2 二次の係数が正の分数

 3 二次の係数が負の整数

 4 二次の係数が負の分数

 5 二次の係数が文字

 

 これらを短時間で一気に教えていきます。青チャートなどの問題集では練習問題が少なすぎるので、その場で10題ずつ作問して解かせていくことも有効です。

  1. 二次関数の教え方 – 絶対値

 絶対値の基本的な考え方は「中身が正ならそのまま、負ならマイナスをつけてはずす」というものでこれ以上でもこれ以下でもないのですが、この点を生徒に覚えさせて体得させるまでには予想以上の時間がかかります。

 まず、最も簡単なy=|x|の外し方を教えます。そこから青チャート例題64で、y=|x-2|など「絶対値一つ、中身が一次」の問題まではスムーズにいきます。

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絶対値は二次関数ではなく数Iの「数と式」の分野で初めて登場しますが、グラフと絡めて教えていくのが効果的であると考えます。

 次に、y=|x+1|+|x-3|(青チャート例題65)に移ります。

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絶対値1つの問題が解ける生徒でも、絶対値が2つになるととたんに出来なくなります。絶対値2つの問題を自力で解けてしまう生徒は思考のメモリ容量が大きいように思います。さて、絶対値2つの問題の教え方ですが、私は数IIの微分法で用いる増減表のような表を用いて教えています。

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 このやり方なら、絶対値が3つ、4つと増えていってもいくらでも対応できる上、思考のメモリ容量が小さい生徒であっても正確に処理できるようになります。

 

  1. 二次関数の教え方 – 最大最小

 最大最小は、高校1年生にとっては中学を卒業して初めて直面する面倒な問題なので、苦手としているのかあるいはそもそも理解していようとしていないのか別れるところですが、どちらにせよ高校の数学の勉強のやり方を理解させるにはうってつけの問題です。

 まず青チャート例題76,77のようなグラフも区間も動かない最大最小の問題はグラフさえ描ければ躓くことはないのでパスしていきます。

 

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例題78は場合分けをしてあって親切なような問題に見えますが、そもそも場合分けこそがこの問題のキモなのでこちらもパスして、例題79、80に時間を割いておしえていきます。

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例題79はグラフが動き、例題80は区間が動くという違いがありますが、問題を解くに当たっては両者は差がありません。例題79が解ければ80も解けますし、80が解ければ79も解けます。どちらか一方に力を入れておしえていきます。

 実際に教えるときには、まずグラフを多く描かせます。二次関数のグラフは大きく5つの形状に分類できます。

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まず、下に凸の二次関数の最大値について5つのグラフの形状において、どこが最大値をとるのか矢印で示します。この際、最大値をMやM(a)などとします。

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 矢印で示させると、「最大値Mは右端でとるか、左端でとるかどちらか」ということが分かります。すると「では、最大値Mが右端でとるか、左端でとるかの境目はどういう時か?」と考えさせます。すると、定義域の中央と軸を比べればよいということが理解できます。

 場合分けを自力で出来るようになるために、各場合の絵を必ず描くよう教えます。

 

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 絵を描くときには、グラフに必ず軸を入れることがポイントです。定義域中央には突起物のような点を与えて、感覚的に理解しやすくします。


 場合分けを2通りで教えるか3通りで教えるかですが、これはどちらでも良いように思います。2通りで教えたら「なぜイコールはどちらに入れてもいいのか?」という疑問に答えなければいけないし、3通りで教えたらど真ん中のときの最大値が少し難しくなります。どちらにせよ、最大値の問題は教えた日に完全に理解できるような問題ではないので、教えた日に8割理解してもらって、残り2割はその後に「最大値の最小値」などの問題でy=M(a)のグラフを書くときなどに理解できれば良いと思います。

 

 次に、最小値をmやm(a)などとします。

 

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最大値のときと同じように、5つの形状においてmを矢印で示させます。最小値は、「右端か、左端か、頂点か」という3つの場合があります。

 これも最大値の時と同じように各場合の絵を必ず教えます。

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  1. 二次関数の教え方 – 平行移動

 平行移動は、「x軸方向に6移動」という処理が感覚的には「+6」なのに正しい処理が「-6」というのが高校1年生には特に腑に落ちないところです。これを原理的に理解させるには、平行移動の公式を導出することが有用です。

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ただし、高1の4月から指導していてスムーズに理解している場合に限ります。高1の秋以降に、「数学が苦手でなんとかしたい」という生徒には平行移動の公式の原理を教えずに「感覚的には+6だけど、-6になるんだよ」と有無を言わさず教えます。10回、20回と繰り返し練習していくうちに、違和感がなくなっていきます。平行移動に関しては、公式の原理を教えたところでそこまで大きなリターンがないので、これでいいと思います。

 

  1. 二次関数の教え方 – 判別式

 判別式の理解は、まず判別式とは何を判別してくれるものなのかというところから教えていきます。もちろん、二次方程式の解の個数ですが、意外と「判別式」以上のことを知らない生徒が多いです。二次方程式の解の公式の√の中身に注目して、判別式の意味を教えていきます。

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 「判別式とは、二次方程式の解の公式の√の中身である」というのは我々教える側からしたら当然のことですが、そのことをはっきり認識している高校生は極めて少ないです。例題119など、この点を理解していないと全く分からない問題が多数あるので完全に覚えて欲しい点です。

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 判別式の難しいところは、例題101のようにグラフが絡んでくる問題です。

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判別式とは「二次方程式」の話なので「グラフ」の話題で用いるためには言い換えが必要です。

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本来はこのような言い換えを論じた後で判別式を使わなければいけませんが、高校生はいきなり判別式を使いがちです。

 私はグラフ絡みの問題は、まずは頂点のy座標に注目して解くやり方を教えます。

 

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というか本来はこのやり方が一番理に適った解き方だと思います。「方程式の解の個数=判別式」という図式はいいのですが(それにしても3次方程式で判別式を論じないで欲しい)、「グラフの交点の個数=判別式」という図式はかなり危険です。早いうちから意識を修正していってほしいです。

 またこの例題では定数分離(東京出版の呼び方ですが)の解法を教えます。

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解法の呼び方はなんであれ、とても重要な考え方です。

 

  1. 二次関数の教え方 – 二次不等式

 二次不等式は意味さえ分かれば全く難しくありませんが、意味がまったく分かっていない高校生はとても多いです。最初はこのくらい丁寧に意味を伝えていきます。

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 一通り理解できたつもりでも、二次の係数が負のときにグラフを下に凸にして間違える生徒も多いです。二次の係数が常に正になるように教えるのが無難だと思います。慣れれば係数が負のままで上に凸のグラフで解けるようになっていきます。